帯広空港から1時間半北上した、大雪山の深山の秘湯、鹿追町の国有林内に湧く然別峡かんの温泉。
ウペペサンケ山の南側。東側には、帯広市街地から同じくらいの距離に上士幌町の糠平温泉 中村屋(北海道)-温泉手帖♨︎といった位置関係。
携帯は圏外、到着したとき嬉しかった。
明治44年創業、2008年(平成20年)に廃業した菅野温泉旅館を現オーナーが買い取り、2014年(平成26年)8月に然別峡かんの温泉としてリニューアル復活。
手前にある建物が温泉棟。
宿泊棟は奥にあるこもれび荘。
こもれび荘から道を挟んだ目の前の温泉棟へ、玄関は通らず裏口から降りていく近道で。
2つの大浴場に分かれていて、男女入れ替え制。かんの温泉には11もの湯船があり、すべてが加温も加水もない源泉かけ流し。
翌朝9時半まで一晩中利用できる。夜の8時に暖簾が替わり男女入れ替え。
右の暖簾がアイヌ語で“出会う”を意味する「ウヌカル」の大浴場。
たくさんの籠が並ぶ脱衣所。全16室の宿で、気軽に日帰り入浴に来られる場所でもなさそうなので、それほど人に会わない。
洗面台もドライヤーもある。
浴室に入るとまず、右手の壁際にシャワーが8個並んでる。その向かいには早速ひとつ目の湯船。
ウヌカルには全部で5つの湯船がある。
「ウヌカルアンナーの湯」は“また会おうね”という意味。うん、まだ入ってもないけどね。
すぐに目の前に現れる細長い湯船は、入り口が、小学校のプールの消毒槽みたいな雰囲気。周りには段差があり、脱衣所側は浅くなってる。
縁から溢れ出る源泉が造った析出物にわくわくする。手すりに出来てる析出もすごい。
混合泉で毎分5ℓの湧出量。pH 6.8のナトリウム–塩化物・炭酸水素塩温泉。ほんのり鉄風味で少ししょっぱい。源泉温度45.9度とあったけど、今日の湯口は58度弱。
ベージュの段々畑のような湯口がたまらない。湯船は38度ちょいの最高に気持ちいいぬる湯。ふんわりした湯感触で肌をさするとふわぬるの肌触り。遊離二酸化炭素が含まれてるからかな。
13の自噴源泉を利用して11もの湯船があるのだけど、一発目のこの湯船が一番気持ちいい。
縁から溢れ出るお湯の向こうに見えるのが「ウヌカルアンノーの湯」。“また会おうぜ”の湯船。
美しい透明なお湯が水色に見え、白い析出物が映える綺麗な湯船。
溢れて流れ出てるお湯がすでに熱くて、足を入れるのを躊躇う。源泉温度56.4度とあるけど、今日は62.5度。湯船は44.5度とかなりの熱さ。
唯一宿泊棟にある浴室「イコロ・ボッカの湯」と同じ源泉。pH 7.8のナトリウム–塩化物・炭酸水素塩温泉。底がつるりと滑る。とにかく熱い。
雰囲気のある石造りの階段の先に浴室はまだ続いてる。
多分外から見えるこの部分。
茶褐色に染め上げられたがたがたの析出まみれの広い床。
どーんと大きな湯船「波切の湯」が目の前に。貝汁のような淡い濁り。
こちらもナトリウム–塩化物・炭酸水素塩温泉で、同じ泉質名ではあるけど、全く違う。
縁がぬるりと滑るので注意して、
湯口は源泉温度と同じ49.6度。湯船は41度ちょい。
pH 6.7の中性で少しきしむ感じもあるけど、肌がねっとりする塩化物泉。
石積みの壁側の隅に銀杏型の小さな湯船。
“銀の滴”を意味する「シロカニペの湯」。
源泉は岩壁の間から岩肌を流れ落ちて湯船に注がれてる。
これもナトリウム–塩化物・炭酸水素塩泉。源泉温度は41.5度で、毎分1ℓの自然湧出。壁から滴る源泉はすでにさほど熱くなくて、湯船は39.5度弱とぬるめ。
1ℓって!と思うけど、こんな小さな湯船に絶えず注がれ続けていて、しっかりかけ流されてる。
どの源泉もメタケイ酸をたくさん含んでるけど、ここは189mg。天然の保湿成分がたっぷり。pH 7.0の中性だけど、隣の波切の湯みたいに肌がきしまない、ふわりとした肌触り。
透明なお湯に細かいオレンジと黒の湯の花が大量に舞ってる。
手に取った大きな湯の花は濃い赤茶色。第一鉄イオンが0.3mg。どれも鉄分があるけど、最初に入ったウヌカルアンナーの湯が0.7mgで一番多い。でも析出物は白寄りのベージュ。ここの茶褐色とは全く違う。不思議。
この岩壁沿いに、ほんとに小さな湯桶みたいな湯船が2つ。
片方は湯が注がれていたから、足湯かなと足を入れたら、むわっと溜まってた湯の花が舞い上がった。熱かった。
さて、最奥に鎮座するように存在感を放つ湯船は、“銀の滴”を意味する「シロカニペの湯」と対をなす“金の滴”「コンカニペの湯」。
かつて「旧恵比寿の湯」として湯治客を癒やしてきたというコンカニペの湯。小さな湯船は2人サイズだけど、知らない人だと譲り合って1人かな。
35.5度と1番のぬる湯で、誰もが入りたいので、暗黙の順番で。
金色に見えなくはない茶褐色やベージュに色付いた岩肌高くから湯が流れ落ちてくる。湧出量は毎分2ℓ。
湧き水なのか、湯気が冷えたものなのか分からないけど、冷たい水滴も一緒に落ちてくる。
やはりナトリウム–塩化物・炭酸水素塩泉で、pH 6.5の中性。源泉温度は48.0度。なんと遊離二酸化炭素が726mgも含まれてる。ふわり感はあるけど、泡付きは分からなかった。
たった2ℓでもこの小さな湯船を満たすには充分で、しっかりかけ流されていく。
もう一方の大浴場の前に、こもれび荘の奥に位置する貸切風呂の「幾稲鳴滝の湯」へ。
鳴滝を目の前に見ながら入れる。
山小屋風の脱衣所。
玄関にある『貸切り使用中』の札を持ってきて、入り口にかけて利用する仕組み。
貸切の時間は30分で1,000円。チェックアウト時に支払う。
チェックイン時、今日はぬる過ぎて入れないとのこと。見に行くのは大丈夫と許可を得て偵察に。
虫防止なのか寒さ対策なのか、ビニールで守られてるお風呂。
直径が3m弱もあるイチイ(エンジュ)の木をくり抜いた湯船。透き通った綺麗な湯。
誰も入らなくても、さらさらと源泉かけ流し。
鳴滝源泉、滝下源泉、噴出源泉の混合泉で、ナトリウム–塩化物・炭酸水素塩泉。源泉温度が38.0度と、夏には有難いぬる湯。
この日は5月なのに息が白いほどすごく寒い朝で、湯船は32度割れ。
夜の8時に男女入れ替えした左の大浴場は、アイヌ語で“幸せ”を意味する「イナンクル」。でも、アイヌ語ネイティブの方からの指摘で、“誰?”の意味だったのだとか。
こちらもたくさんの脱衣籠があるけど、スペースの割に誰にも会わないので、ゆったりできる。
浴室に入ると、左手にシャワーが6つ。こちらの大浴場には内風呂と露天風呂が2つずつある。
右手にある最初の湯船は、“幸せになろうネ”と名付けられた「イナンクルアンナーの湯」。
誰も入ってなくても、縁を超えさらさらさらさらかけ流されてる。
え、元の形はどんなん?と首を傾げてしまうベージュの鱗模様の湯口。源泉温度が48.5度のナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。この日の湯口は63.5度で湯船は45度。湯揉みせずに湯面だけ測ると49.5度。
湯の溢れっぷりがすごい。
斜向かいの湯船が男言葉のアンノーが語尾について、“幸せになろうゼ”と名付けられた「イナンクルアンノーの湯」。
この大浴場にある露天風呂「秋鹿鳴の湯」と同じ源泉。
窓に面した大きめの湯船。明かりが差し込むたっぷりのお湯に誘われて足をつけると、45度弱。
源泉温度52.3度。周りだけ白い髭のような湯口からは、それなりの湯量が投入されてる。湧出量は自然湧出で毎分13ℓ。
排水口の排湯が間に合ってない。
2つの熱過ぎる内風呂に足をつけた太ももには真っ赤なラインが。お湯を感じる余裕はない。
突き当たりに露天風呂出入り口と、シャワーが3つ。
内風呂から溢れたお湯が露天風呂への階段を流れ落ち、ベージュの階段になってる。
2つの露天風呂のうち、向かって左側が「秋鹿鳴の湯」、右側の「春鹿呼の湯」。
“春を呼び、秋よ恋しと鹿が鳴く”イナンクルの露天。
どちらもナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉だけど、色が明らかに違う。
少し緑がかって見える秋鹿鳴の湯。
湯口はべっとり赤茶色。湯口で45度の源泉が少量注がれてる。
湯船の中の岩や湯底は緑色に染まり、足元はぬるぬる。
湯の花も緑色の塊。
内風呂のイナンクルアンノーの湯と同じ源泉。熱くてちゃんと見れてないけど、緑色ではなかったような。湯の花じゃなくて、温泉藻なのかな。
湯温は39.5度。やっと入れる湯船にたどり着いた。2つの隣り合った湯船は湯の行き来があり、右下の穴から熱い湯が流れ込んでくる。
つるりとしてるけど、きゅうっと肌にすいつく湯感触。
右側の春鹿呼の湯は44.9度の源泉だけど、湯口で49度。湯船は43度と、内風呂よりはぬるいけど、つかってられる温度でもない。
湯口や側面の岩はオレンジ色。
隣に出ていく穴と、こちらは入ってくる穴かな。周りが緑色になってる。
どちらも天然の保湿成分メタケイ酸が200mg前後も含まれてる。こちらはふわつる感のあるお湯で、湯の花は黄土色。
しっかりした粒のような塊がたくさん舞ってる。
湯船の底のタイルは昔の菅野温泉のものが残されてる。
最後に、宿泊受付のすぐ奥にある浴室「イコロ・ボッカの湯」。大浴場「イナンクル」とセットになって男女入れ替え。
真新しさを感じる綺麗な脱衣所。
立ちはだかる岩壁の元にある湯船。自然のままがそこにあるような浴室。
左手にはシャワーが2つ。
かつて「寿老の湯」「クロレラの湯」として湯治客を癒やしてきたほぼそのままなのだそう。
完全に屋外なのだけど、しっかり岩に囲まれ屋根があり、半露天のよう。葉っぱひとつない清潔で気持ちのいい状態だった。
湯口はないけど、さらさらとかけ流されている源泉は、pH 7.8のナトリウム–塩化物・炭酸水素塩泉。
ふんわりとした肌触りで、沼っぽい匂いがし、ほんの少し甘さがある。
イコロ・ボッカはアイヌ語で“宝物が湧き上がる”という意味で、その名の通り足元湧出の湯。もうないかな、と思ってたけど、32湯目の足元湧出泉。
岩の間からぶくぶくと湯が湧いているのが分かる。源泉温度は56.4度で夜の湯船は41.5度。湯底の岩がじんわり熱く、気泡が出てるところを測ると43度。
熱くなりすぎるために、5月頃からは手製の熱交換器を沈めて適温に調整するそうだけど、多分まだしてなかったと思う。
湯面にいくつもの水輪が見える。ぷくぷくぽこぽこぽこ至るところで音がし、大地の恵みを感じられて感動する。
じっと静かにしていると、足や身体にさわさわと泡があたり、くすぐったい。
つるりとした浴感で、湯上がりの肌はねっとりじっとり。天然の保湿成分メタケイ酸が192mgも含まれ、消毒作用のあるメタホウ酸も142mgと多く含まれる。
オレンジ色の大きめの湯の花がほわほわ舞ってる。岩の間から湯が湧き出る水流で舞い上がる。
同じ源泉を利用したウヌカルアンノーの湯は、綺麗な白い析出物で覆われた湯船だったの不思議だな。
翌朝は外気が低く、40.5度とぬる湯でさらに気持ちよかった。
すべての源泉がナトリウム–塩化物・炭酸水素塩泉だけど、どれも違う。色も匂いも湯の花も。温泉の不思議さも目の当たりにでき、稀少な足元湧出も味わえる。遥々やってくる価値がある秘湯。
然別峡かんの温泉
★★★★★
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉
38.0〜56.4度
pH 6.5〜7.8
59ℓ/分 + 足元湧出、貸切風呂
加水加温循環消毒なし
内風呂7 露天風呂4
2023.5 宿泊
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