露天風呂付き客室発祥の宿、忘れの里 雅叙苑。
昭和45年創業。昭和53年に離れの古民家をリニューアルし、客室に専用の露天風呂を造ったのは、あの天空の森の田島さん。
『にわとり優先』の看板にわくわくしたけど、あいにくの大雨でにわとりには出くわさなかった。
車を降り緑の中、石段を上るとそこは別世界。そこには茅葺屋根の古民家を移築した昔ながらの集落が在る。客室数10室の村のような宿がひっそりと佇んでいる。
なんと鹿児島空港から車で15分。家出の行き先候補にしたい超好アクセス。
霧島市の天降川沿いに温泉旅館が建ち並ぶ妙見温泉。元々は湯治場として地元の人々に愛されてきた素朴な温泉地。
新川渓谷温泉郷(日の出・塩浸・安楽・新川・妙見・日当山・姫城)のひとつで、以前、妙見温泉 石原荘(鹿児島) – 温泉手帖♨︎に日帰り入浴に来たことがある。宿泊した日当山温泉 数奇の宿 野鶴亭(鹿児島) – 温泉手帖♨︎も同じ温泉郷。
囲炉裏の休み処には、レモン水と梅干しにおやつのふくれ菓子。
夜にはここで鹿児島焼酎が振る舞われる。
黒糖のふくれ菓子がねっとり美味で、迷わず翌朝買って帰った。
外風呂は天降川沿いに3つある。
車をとめたところまで石段を降りると、目の前に湯小屋があり、そこに「建湯(たけるゆ)」が2つある。
日帰り入浴の時間は男女別大浴場となる建湯。チェックインの14時からチェックアウトの12時までは、宿泊者の貸切利用となる。一晩中、いつでも湯浴みができる。
小屋の端と端にそれぞれの出入り口があり、入浴中の木札をかけ、内側から鍵をかけて利用する。
脱衣所と湯浴みエリアが一体化した風情ある造り。脱衣所の足元は竹。全然歩きにくくない。
石の重厚な湯船がどーんと鎮座してる。
30万年前の噴火の堆積物が巨大な一枚岩となり、横を流れる天降川に連なっていて、その重さ20tもの巨石を運び、半年がかりで石工さんと一緒にくり貫いて作ったという迫力の湯船。
湯船の左手にかかり湯と書かれたかけ湯がある。かかり湯で身体を流してから入る。当たり前のようでなかなかない、計算された美しい配置と造り。
石の湯口から泡を伴いながら湯が注がれている。
3本の自家源泉を持っていて、建湯で使っているのは、37度と54度の2本の混合泉でナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉。
重曹泉は美肌の湯で、カルシウムやマグネシウムは鎮静作用や炎症を抑える効果がある。
37度の源泉は敷地内にある掘削自噴泉で、以前は50度程あったのに天降川の増水などで泉温が下がってしまったそう。
で、2km離れたにわとり牧場をボーリングして掘削した54度の源泉を引湯して混ぜ、41度前後の適温にしている。
夏場の暑い時期は、地下水による加水で調整するそうで、湯口の上部に竹で注がれているのが、ぬるい源泉と地下水のようだった。
湯船の周りには溝があり、溢れたお湯はここをつたわり排出口へ流れていく。小屋原温泉 熊谷旅館(島根) – 温泉手帖♨︎とかも同じしくみ。
なんかここを流れていくお湯がすき。
奥側のもう1つの建湯も、真ん中で仕切られた線対称の造り。葦簀越しに川の流れる音が聞こえる。
どの浴室もフェイスタオルが備え付けられていて、有難い。
蚊取り線香まで茅葺。
巨石をくり貫いた湯船に
線対称の位置にかかり湯。
こちらは44度弱でかなり熱め。触り忘れたのだけど、高い方の源泉に地下水かな。
立派な析出物。
鉄の香りがして、少し甘みがある。
湯船の湯温は41度ちょい。勢いよく注がれ、湯船の縁の低い箇所から溢れ出ていく。
気持ちいい量のかけ流し。ざっばざっば流れていく。
2本の源泉の湧出量は合計で毎分約200ℓ。この混合泉が主にここ建湯と客室露天風呂に利用されている。
縁から溢れ出るお湯は溝を上手に流れていく。
岩肌の析出物が芸術的。
薄濁りのお湯にはオレンジ色の湯の花が大量に舞ってる。
美肌の重曹泉は、皮脂や老廃物を乳化し洗い流す作用があるので、お肌がつるつるに。天然の保湿成分メタケイ酸が231mgも含まれている。
泡付きもあり、つるつるの肌触り。新鮮な源泉かけ流しだからかと思いきや、驚くかな、遊離二酸化炭素が659mgも含まれてる。かなりの量。
炭酸ガスは皮膚から吸収されやすく、血液循環を促すので、新陳代謝がよくなる。気付けば汗だくに。
ねっとりもしてるけど、湯上がりは炭酸ガスの作用で水分発散が盛んになり、肌がさっぱりする。でも汗だく。
今回楽しみにしていたお湯はこれじゃなくて、もう1本の源泉。建湯の奥にあるラムネ湯。
こちらの柵に入浴中の木札をかけて、石段を川側に降りていく。
湯小屋は川の真横、増水が心配なほど近い。
楽しみにしてたラムネ湯。14時ちょっとフライングで来たので一番乗り。
地域の方が利用していた古い温泉場だそうで、当時の湯治場風情が残る造りがたまらない。
露天だけど屋根付きで、周りは葦簀で目隠しと、多分アブなどの虫除け。蚊取り線香もついてる。
四角い湯船が2つあり、奥にうたせ湯がある。2つの湯船の間に脱衣スペース。
湯治場風情を感じるのに、洗練されたお洒落感もある整った空間。
入り口まで湯が溢れていて、浴室に足を踏み入れる足場に躊躇する。どこに一歩目を降りたらいいか、ここで草履を脱いでくか。
熱めの源泉が音を立てて壁に噴出し、その湯が足元まで流れてきてる。とりあえず一歩目はお湯の中で、草履のまま奥へ入る。
これが手前の湯船。
ここから熱い源泉が量を絞って注がれ、向こうの壁にはざっばざっばかけ捨てられてる。
湯船の縁が低い部分から、どんどんお湯が外へ溢れていく。
茶褐色の析出物に、お湯への期待が高まる。
湯船の色に反してお湯は透明で、白っぽい湯の花が大小たくさん。
オレンジ色の大きめの湯の花もある。鉄の香り。
泡付きもしっかりあり、つるつるの肌触り。湯温は39.5度くらいで、建湯より入りやすい。
湯船の底からぷくぷくと泡が出ているところがある。下で湧いてるラムネ湯が隙間から入ってきてるみたい。
予想外のまさかの足元湧出。
逆側の竹筒から注がれているのが、ラムネ湯源泉。これが3つ目の源泉で、古くからある自然湧出の自噴泉。
手にすくってみると泡が含まれてるのが分かる。
翌朝、大雨の中もう一度ラムネ湯へ。
手前の混合泉湯船の湯底。オレンジ色の湯の花がたくさん集まって大きな塊になってた。
横向温泉 下の湯 滝川屋旅館(福島) – 温泉手帖♨︎で浮いてた雲丹みたいな湯の花。
湯温は38度前後と昨日よりぬるく、絶妙なぬる湯。しかも、おそらく地下水の加水ではなく、ラムネ湯源泉によるぬる湯ではないかと。
うたせ湯は、混合泉の1つの温度の低い37度の源泉。
うたせ湯ってほどの激しさはなく、優しく落ちてくる。手で受けとめると手のひらに泡が付く。
混合泉の遊離二酸化炭素が659mg。この源泉もたくさん遊離二酸化炭素を含んでるのが分かる。
さて。いざ1番楽しみにしていた湯船へ。
逆側から見ると
湯船の縁は、ほんの少しの高さしかなくて、ざばーんと浸かれば容易に四方からお湯が溢れる。
湯口側以外の3辺にコの字型の段差がある。
上から2番目の濃い茶色のラインが湯船の外側にある排湯のための溝。真ん中の白めのラインが湯船の縁。その下が湯船の中の段差で、1番下のブルーがかったのが湯船の底。
ぬ、ぬるい。至極のぬる湯。気持ち良すぎる。
澄んでいて、白い湯の花がたくさん舞っている。
この穴から湯が流れ出ているのだけど、一見すると湯口に思えるけど、
なんかおかしい。この穴から出てきてるお湯は全く湯船に入らず、そのまま流れていってる。
写真の手前が湯船。
手前の湯船から流れ出ている湯の量が多いので、両側からの湯が勢いよくかけ捨てられてる。もったいない。
透明だから分かりづらいけど、すごい量が流れ出てる。
排湯口がこれ。
こちらの縁からも大量に流れ出てる。めちゃくちゃ湯量が豊富なことが分かる。
湯船から直接溢れ出てる湯の量の凄まじさ。
これは湯船の中から湧いてるとしか思えない。底に大きな穴があいていて、他にもひび割れや穴がある。
これ、まさに足元湧出泉。泉源が湯船の直下というか、泉源の上に入らせてもらってる。まさに生まれたままの温泉をそのまま堪能できてる。
入った瞬間、大量の泡が肌に付く。
はらってもはらっても大量の泡。
温泉分析はしていないラムネ湯と呼ばれている源泉。
明らかに建湯よりも炭酸ガスが多く含まれている。純粋な二酸化炭素泉なのかもしれない。最高だな。
炭酸ガスの気泡が血液の循環を促進させ、血圧を下げる効果があり「心臓の湯」とも呼ばれる二酸化炭素泉。なかなか出会えないし、冷た過ぎずに適温で入れるなんてそうそうない。
あわあわふわふわのしゅわしゅわ。つるつる感の中にざらりとした粒子感もあり、肌にきゅうっと吸い付くような肌触り。
新鮮で理想的な最強の湯船。しかも36度割れの超絶気持ちいいぬる湯。ゆっくりと温泉の効能を堪能できる。
血行が良くなって、汗がだらだら出る。めったに汗かかないので驚くほど。
もう、何時間でも入っていられるのに、時間制限がないので、誰か空くの待ってるだろうな、早く出なきゃと逆に焦ってしまうのが悔しい。
名残惜し過ぎるラムネ湯。後ろ髪ひかれながら部屋に戻る。もっと入っていたかったな。
5タイプの客室がある中で、お風呂リビング付き客室を選択。
お風呂リビングとは、お風呂場ともリビングとも言える空間。
元々あった露天風呂に屋根と壁、窓を取り付け、床暖房を施し、ソファやベッドを置いたという、まったり寛げる立派な部屋。
冬には床が暖かくなるなんて極楽だろうな。
ちなみに真ん中にある柱みたいな木は、本物の木。この後、大雨になり、しっかり幹が濡れてた。木の奥側のバスマットまで濡れてたけど、そんなこと全く気にならない。
窓からの景色は、茅葺き屋根と緑。
湯船は石造りで、シャワーにシャンプーもある。
客室風呂の源泉は、建湯と同じ混合泉。
チェックイン時に、湯温の調節するので言ってくださいねと言われたので、38度にお願いしてから外湯へ。
戻ってきてから入ってみたら、ばっちり38度。すごい。湯を絞るのではなく、地下水で加水するそうでちょっと残念だけど、ぴったり38度。
元々は41度くらいに調整しているそう。建湯と同じだ。
あぁ、これがラムネ湯だったら、あるいはラムネ湯源泉で湯温調整してくれたら、最強なのにな。
結構な量がかけ流されていくので、新鮮で気持ちいい。
湯船の縁の析出物が外湯よりも白く、カルシウム感がある。
なんでここだけ引っ付いちゃったんだろう。
外湯から戻ってきたら、すでに爪が黒くなってた。
あぁあ、ラムネ湯最高だった。最高過ぎるから温泉分析しないのかな。仮に二酸化炭素泉だったら、絶妙なぬる湯の足元湧出の二酸化炭素泉ってそれだけで眉唾だもんなー。
あぁ、再訪したい、雅叙苑のラムネ湯。家出の機会ないかな。
妙見温泉 忘れの里 雅叙苑
★★★★★
ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉
37度と54度の混合泉
pH 6.6
計約200ℓ/分
内湯2(建湯) 露天風呂2(ラムネ湯)
加温加水循環消毒なし ※夏季は加水あり
2020.7.23 宿泊
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