国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。
川端康成の名作『雪国』は、昭和9年の晩秋から昭和12年にかけて、越後湯沢の温泉旅館 高半のかすみの間で書かれたもの。
この宿の2階にあった彼が逗留していた部屋は当時のまま残されている。
東京駅からわずか1時間20分の越後湯沢駅。西口に続く温泉街の一番北の端に雪国の宿 高半はある。車で5分ほどの道のりは宿の車で送迎してもらえる。
900余年もの昔、この宿の先祖 高橋半六翁が偶然発見した源泉が湯沢温泉の始まりで、今も変わらずに湧き続けている。
玄関には湯元 松坂屋 高橋半左衛門。昔のまま残してるのかな。こういうレトロ玄関すき。
高半を選んだ理由は自家源泉を所有していて、しかもその源泉が適温でかけ流しだから。
卓球がフリーだからではない。‥やりたかったなぁ。
900年以上前に半六翁が発見した宿の裏手に湧く自然湧出の源泉。
44.3度の源泉が湯船に届くまでのわずか70mの距離、湯揉みされながらほどよい温度で流れ落ちてくる。
奇跡の湯とはごもっとも。
大浴場は男女別で入れ替えはなし。一晩中入ることができる。素敵な宿。朝9時半からお湯を完全換水しての清掃。循環も消毒もしないお湯を提供するため。有り難や。
宿泊者はチェックアウト後、13時から17時に再度入浴できるそう。すごい。日帰り入浴は同じく13時から17時(最終受付16時)で1,000円。
脱衣所は半分が畳。ドライヤーは入り口横の別の小部屋にあるので、洗面台付近に髪の毛とかが散乱していなくていい。
浴室はかなり広い。湯船に比べると洗い場エリアがすごく広々。湯船へは飛び石が敷かれてる。別にこの上を歩かなくてもいいのだけど。
洗い場は一列に7つシャワーが並んでる。湯船から遠く離れてるので気兼ねなく使える。
内湯の湯船の横には畳。赤ちゃん用?それほど入りづらい湯船の造りではないので、お年寄りに考慮してではない気がするけど。
L字型の湯船は、水色のタイル。大きな窓からは外の木が見えていて、もう少し紅葉したら綺麗そう。
どこの窓が開いていたのか分からなかったけど、どことなく外の空気が入ってきて、浴室内は暑すぎず蒸されることもない。
女湯だけに作られたという露天風呂がある。もう一方の飛び石の先に木戸があり、外に出られる。
レトロな木の窓が可愛い。
浴室内から窓越しに露天風呂をのぞくとこんな感じ。
引き戸を開けると、もう一つ引き戸。
昔の家の廊下みたいで少しわくわくする。こういう普通の木の引き戸の外に露天風呂って珍しいような。
二面がオープンの屋根付きの露天風呂。
湯底は石で、手前3分の1くらいの浅い段差部分には木が張ってある。左手の段差も木。滑りやすいので滑り止めマットが敷かれてる。
湯船の横壁は水色のタイル。色々組み合わされてるけど、あまり違和感なく馴染んでる湯船。
湯温は39度前後のぬる湯。冬には露天風呂だけ加温するらしい。今は源泉かけ流しだろうな。ぬる湯が気持ちいい。
とき卵を入れたような湯の花が咲くことから「卵の湯」と呼ばれている源泉。ふわふわの白い湯の花が少々。
立ち上がると線路も見える。部屋から新幹線見えたけど、この線路もそうかな。
内湯との境の壁の窓。窓、窓と呼んでるけど、開かない、ガラス戸と言えばいいのかしら。
大浴場にはサウナもある。夜の何時かまで。男湯には水風呂あり。
さて、内湯に戻って卵の湯を堪能。L字型なので湯口と手前の端ではほんの少し湯温差がある。
かなりの湯量がかけ流されている。季節によるけど、毎分300ℓもの豊富な湧出量があり、3時間で湯船の湯がすべて入れ替わるそう。
湯口から出てきた湯は戸板を伝って湯船に投入されてる。長めの戸板。
湯の花が溜まり、白いふわふわが付いている。
3時間で湯が入れ替わるだけでもすごいけど、湯船を常に新鮮な湯で満たすために、湯船の底の湯抜き栓から流入量と同量の湯を抜いている。
湯温が均一にもなるし、沈殿した髪の毛や湯の花を流すための工夫。それだからか、それほど湯の花があるわけではない。
常に新鮮で清潔なお湯に入れる。しかも一晩中。
この日は、40.5度前後の絶妙な適温だった。アルカリ泉のぬるつる湯感触が気持ちよくて、お湯からあがりたくない。
湯口のそばにいると、こんこんと湧き出てくる感覚が顕著で、とぽとぽと満たされていく。
川端康成が奥さんに宛てた手紙に「この温泉は神経痛によいらしい。暖かくなつたせゐもあろうが、徹夜の後の無理で病んでも直ぐよくなる。(後略)…湯はぬるいこと前便通りだが、石鹸のあぶくたつこと、東京以上で、肌にいいと思はれる。(後略)」とある。アルカリの美肌の湯。
硫黄泉って知らなければ分からないほどの、ほんのわずかな匂いしかしない。
脱衣所に温泉水があるけど、こちらも普通に美味しい癖のない水。
湯に浸かっている時も、宿の部屋で過ごしている時もほとんど感じなかった硫黄の匂い。
不思議なことに家に帰ってきたら自分から匂ってきた。あんなに感じなかったのに、やっぱり身体には付いてるもんなんだ。この硫黄の残り香大好き。
玄関横の喫茶スペースで、毎晩8時から大きなスクリーンで映画『雪国』を上映している。
途中だったから見なかったけど、ちゃんと見てみたいと思った。
湯沢温泉 雪国の宿 高半
★★★★
単純硫黄泉
44.3度
pH 9.4
260〜390ℓ/分 自然湧出
内湯(男1女1)露天風呂(女1)
加温加水循環消毒なし
2019.10.13 宿泊
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