福島駅から西へ約18km、タクシーだと40分弱の微温湯(ぬるゆ)温泉。磐梯朝日国立公園 吾妻小富士の東麓。宿までの8kmくらいの道は車がすれ違えない程の山道。以前は水俣バス停から送迎をしていたそうだけど、今はやっていない。
標高920mに位置するこの温泉の冬は雪深く、冬季は休業。4月下旬から11月下旬のみの営業。秘湯を守る会の旅館 二階堂。
微温湯温泉は開湯300年、享保年間(1716-1735年)にはすでに存在が知られていて、二階堂の初代が温泉を譲り受け湯治客を受け入れるようになったのが享和3年(1803年)。幕末の戊辰戦争時に官軍に焼き払われ、明治になって再建した建物が今も現役で残っている。
山の中に連なる3棟の建物。3つとも国の登録有形文化財。
手前が帳場と厨房で大正初期の建築「帳場棟」。
この2階の部屋に泊まった。正面に見える青空が映っているガラス部分は、板張りの広縁でソファが置いてある。窓は開かない。網戸もないし、窓開いてないけどすでに虫がたくさん。
机の上には蚊取り線香。
この2階へは、帳場棟と中座敷棟の間にある階段で。
3つ並ぶ部屋の一つに泊まった。襖にはもちろん鍵などない。部屋の入り口から見た廊下の窓。裏山が迫ってる。割れたところはガムテープで補強。蚊取り線香焚いて寝たので、一晩中入り口の襖は開けっ放し。
二間続きで、炬燵の部屋と左奥にもう一間。そちらに布団を引いてくれてた。広々で快適。
さて、3棟の建物の説明に戻ると
この真ん中のが旅館部で明治30年の建築「中座敷棟」、一番奥にあるのが明治5年に再建した茅葺き三階建ての湯治自炊棟「古家棟」。
中座敷棟の1階の庭側の廊下。左手にあるのは昔の電話。携帯も繋がりにくい(ソフトバンクは珍しく繋がる)ので、玄関には現代で使える緑の公衆電話もある。
玄関を見張ってるのは、ここのうちのごま作さん。夜中もにゃーにゃー言ってた。4匹いるらしい。
こちらが中座敷棟2階の山側の廊下。秘湯の湯治場の雰囲気そのもの。昨夜はここの廊下に、神さまみたいな化石みたいなすんごい大きいカミキリムシが鎮座してた。
さて、肝心の浴室はこの長い渡り廊下の先にある。
部屋から見下ろした渡り廊下。
途中に湯治用の自炊場や洗濯室とかもある。この渡り廊下、昼間は窓が開いていて(網戸などない)、自由に虫たちが行き来している。虫って言っても、人里で見る虫じゃないから。尻尾が異様に長い虫(もちろん飛ぶ)とか、思わず話しかけたくなるような身なりの蛾とか。
この廊下の流しにある鏡がレトロでかわいい。左下には微温湯温泉のシール。ここにドライヤーがひとつ置いてあって、自由に使える。日帰り入浴用のロッカーも。
あ、玄関前の庭にたくさん自生しているネモトシャクナゲ、大正時代に国の天然記念物に指定されている。6月中旬頃に咲くそう。
男女別の浴室入口。左が女湯、右が男湯、男女入替えはなし。22時から24時までの清掃時間を除き、一晩中入浴できた。
脱衣所はこじんまりとして清潔。
脱衣所のドアを開けて三段下がったところに浴室。
湯船の縁からがんがんお湯が溢れ出て、足元を流れていく。
このオーバーフロー感、伝わるかな。排出口が別なところにあるにもかかわらず、湯船の縁からこんなに溢れてる。
木造りの浴室、湯船も木造り。高い天井で、男女の浴室が上では仕切りなく繋がっている。
女風呂という浴室自体は大きくはないけど、高い天井のひとつの大きな湯小屋で開放感がある。
硫化水素の匂いがはっきりするけど、硫黄泉ではない。
旧泉質名で含緑ばん・酸性明ばん泉という、鉄やアルミニウムの多い硫酸塩泉。淡い緑色にも見える。超新鮮な鉄泉は赤茶けずに緑がかってるってこれだ。
あ、ここまで引っ張ってしまったけど、名前の通り、ぬる湯の温泉。真夏に来るのを楽しみにしてた温泉のひとつ。
冷たいのかなと思いながら恐る恐る入るけど、全然冷たくない。寒いなど感じる間もなく、すぐに身体がぽかぽかしてくる。湯温は33.3度しかないのに。
先週入った金田一温泉 座敷わらし伝説の宿 緑風荘(岩手) – 温泉手帖♨︎も同じ33度だけど、加温してかけ流されているお湯は42.5度だった。各温泉地で仕方ないのも分かるけど、33度の源泉湯船万歳だよ。
10分もしないうちに、手足がしわしわになる。
湯底には白い湯の花、だけじゃなく、ざらざらした細かい砂が溜まっていて、お尻がざらりとする。
湯口のそばに座っていると、その水流の激しさで、砂が巻き上げられ身体に積もっていく。
湯の花はこれとは別で、白くて細かいのが水流に乗って流されていくのが見える。
とにかく水流が激しい。すごい勢いでかけ流されていて、自分ちの湯船より清潔なんじゃないかとさえ思ってしまう。
ざぁーざぁーと滝のように投入される湯が勢いを増して、川が流れてくみたいに湯船のもう一方の端に向かっていくのが波打つ湯面からも分かる。
すごい勢いの水流が身体を撫でていくんだけど、そのほのかな温かさが肌をかすめていくと、水流が直接当たらない部分だけ、冷たい水が滞留していて冷たく感じてくる。
少し泡付きもあるけど、湯面が水流で動いてるから確認しづらい。
ざぁーざぁーと激しい音だけ聞こえる静寂の中、激しい音が聞こえてるのに静寂って不思議だけど、これが静寂。静寂の中、じぃーっとひたすら1時間以上の時間を過ごす。それを何回も。
一度湯から出てまた戻った時の湯の暖かさのうれしいこと。
湯船の縁に頭をのっけて、浮力に任せて身体をふわり。息を吸うとふわりと浮かんで、吐くと下がる。あっという間に時間が過ぎていく。
味は酸っぱい。レモン水、いや、生のレモンのような苦みやえぐみがない、果実の甘さをほんのり感じるような、爽やかなかぼすかな。こんなに飲みやすい酸性泉あるんだ。
湯口の反対側にあるこれが排出口だけど全く追いついてなくて、湯船の縁から溢れ出ていく湯で、洗い場側に絶えず湯が溜まっている。
目の湯として有名なお湯だから、目を洗わないのもなぁと随分と悩む。肌が強くないので、酸性泉は出来れば軽く洗い流したいくらい。長湯すると座っている部分の皮膚が剥けることもある。入る時に肌がピリピリするし。あれ、思えばこのお湯ピリピリしない。夕食前に入った時も洗い流さずに出たけど、ひりひりしないし。
このお湯もしや、自分的に最強酸性泉かもしれない。肌に優しい酸性泉。いけそうな気がしてきて、湯口のお湯を掬おうとしたけど、勢いあり過ぎて簡単には手で掬えない。
少量しか掬えないけど、顔洗ってみた。しみない。目もぱちぱちしてみた。そんなにしみない。全然大丈夫。こんな酸性泉あるんだ。大発見。
アルミニウム-硫酸塩泉ってあんまり見たことない。含アルミニウムで調べると、玉川や草津が出てくるけど塩化物泉。
酸性の硫酸塩泉。皮膚や粘膜を引き締める作用がある。殺菌、抗菌作用が強いので、眼病だけじゃなく傷や皮膚病にも効果がある。浴感はねっとりきゅっきゅ。
暖まり用の加温湯船(42度くらい)がある。入らなかったから忘れてた。でも夏以外は絶対必要。
昔は微温湯とは別に「滝の湯」という熱い源泉があったけど、十勝沖地震(1968年)でお湯が出なくなってしまったそう。
加温湯に入らずに出たので、バスタオルにくるまりほっとし、浴衣を羽織りさらにほっとする。
身体の中だけがぽかぽか暖まった感じで、肌はひんやりさらりとしてる。汗もかかないしさらさら。
お風呂から戻ると、普通に炬燵に座った。クーラーも扇風機もない窓も開けない部屋で、結構ごつめの布団を掛けて寝る。真夏だよ。
ぬる湯番付の東の横綱。
古来より眼病、皮膚病、化膿症に効く名湯として知られ、治癒の例も多い。眼病はとくに結膜炎や白内障によく効き、江戸や明治にはお金持ちの眼湯治で賑わっていたらしい。今も全国各地から眼の悪い人が多く来湯しているとのこと。
夕食のメインは鴨の溶岩焼。美味しかった。1万円くらいの宿泊費だと思う。お湯だけでも大満足なのに。
あぁ、それでもやっぱり酸性泉。足の裏の皮は数日後にしっかり剥けた。
微温湯温泉 旅館 二階堂
★★★★★
酸性・含鉄(II・Ⅲ)-アルミニウム-硫酸塩泉
pH 2.9
31.8度
194ℓ/分
加水加温循環消毒なし
2019.7.27 宿泊
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