奥蓼科温泉 信玄の薬湯 渋・辰野館(長野)

新宿から特急あずさで2時間ほどの茅野駅。駅から車で30分ちょっと北上した八ヶ岳連峰西麓にある奥蓼科温泉。麓から順に明治温泉旅館、渋・辰野館、渋御殿湯と3軒の宿がある。一番奥にあった渋の湯ホテルは10年以上前に閉館してる。

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御射鹿池から5分ほどの標高1,700m、奥蓼科の白樺の森に佇む渋・辰野館は創業100年の老舗宿。

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東山魁夷がここ渋・辰野館に滞在していたときに、御射鹿池をモチーフにした作品『緑響く』を着想したと言われてる。

通りすがり、夕方なのに綺麗に見えた。

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敷地内にはかつての古い洋館も残っていたり、

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館主と写真に映る小さな由紀さおりに、宿の歴史を感じる。

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創業は大正8年で、現在のご主人で4代目。

2階から4階までが客室で、大浴場は1階。全12室とあったので、4階の4室は使ってないのかな。

あまりに有名な温泉だけど、ずっと来渋っていたのは、入浴時間が夜22時半までと短い。朝も6時から。

夜中にごそごそと温泉に入る旦那さんのために、出来るだけ一晩中入れる温泉をチョイスしたいので。と言いながらも来てしまった。

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1階にある大浴場はフロントからは行けず、2階の廊下から。何度も現れる階段をひたすらに降りていく。

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「信玄の薬湯」と露天風呂のある「森の温泉」、洗い場のある「展望風呂」の3つの大浴場があり、それぞれ男女別で入れ替えはなし。

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まず初めにあるのが展望風呂。ここは温泉じゃなく、天然水を加温したお風呂。

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広い脱衣所。洗面台やドライヤーがあるのもここだけ。

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石鹸やシャンプーが使え、洗い場があるのがここだけなので、まずはこちらで身体を洗うのがマナー。

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壁の黄緑色と窓の外の樹々の緑が、ぱぁっと明るい浴室なのだけど、天井だけが木造りでなんか不思議なバランス。

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洗い場は左右合わせて5つのシャワー。

湯船は2つあるけど、右側のみにお湯がはってある。浸かってはないけど、どれくらいの温度なのかなと足先をつけてみたら、まあまあぬるめだった。

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いちいち服を脱いで着てしなきゃならないので面倒だけど、洗い場のない秘湯のことを考えたら、シャワー付きの真水の洗い場があるなんてすごく贅沢。

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さらに奥に進むと分かれ道。右に曲がると森の温泉、真っ直ぐ行くと信玄の薬湯。

それぞれに、20度割れの冷泉そのままの源泉湯船と、それを加温した湯船がある。

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まずは右に曲がり森の温泉へ。少し階段を降りると男湯の暖簾が見える。

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女湯の横には、神様が祀ってある。

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コンクリートに囲まれた、なかなかない雰囲気の脱衣所。誰にも会わないので、ベンチに籠を置いて着替え。

脱衣所まで、とぽとぽと湯が上から注がれる音が響いてくる。

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ガラス戸を開けると湯煙でむわっとし、硫黄の匂いが立ち込めてる。pH 2.7の単純酸性冷鉱泉。

白く濁った湯船。可愛らしい格子のガラス戸の奥には水色の露天風呂も見える。露天風呂があるのはここだけ。

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引き戸を両方とも開けてみると、同じライン上に2つの湯船が中と外に並んでる。横には簀子の足場。

露天風呂は滝のように上から湯が落ちてきてる。

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真っ白の内風呂は、女湯の中では一番大きいサイズかな。

長い縁の方にステップ台があるので、一度そこに腰掛けてから湯に入り、立ってみる。深さは股下くらい。肩まで浸かるには中腰になるしかない。

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浴室の壁は石が積み上げられていて、独特の雰囲気。

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湯口も石の間から出てる。36度の加温湯が木筒から注がれている。

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湯船の中は38度弱のぬる湯。

ステップ台に座って半身浴していると、足が水流にくすぐられる。湯船の中にもパイプがあり、39度の加温湯が投入されてた。その湯の流れがふわふわと肌に当たる。

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すでに息絶えた小さな虫や、たまにちょっとでかめのやつが、結構ちょいちょい、ぷかぷかと流れてくる。湯口から来てるのか、直接湯船に落ちたのかよく分からなかったけど。湯船に桶を浮かべたままにしておいて、目につく度にすくって外へ。

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隅の方には細かい湯の花が膜のように浮いてる。

硫黄臭がすごいけど、鼻がツンとなるようなアンモニア臭にも感じる。ふわりとした浴感でしっとりした湯感触。肌をさするときゅうっと掌が吸い付く。

加温してても、これだけ温泉感があれば、もう十分楽しめる。こんなに硫黄硫黄したお湯なのに、硫黄泉じゃないってどういうことなんだろう、と温泉分析書の不思議。

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湯船の長さが結構あるので、入り口の段差(ステップ台)で寝湯ができる。木の縁に頭をのせて、完全に足を伸ばしても、向こうの縁まで届かない。

ぬる湯で寝湯で長湯。いや、これ極楽。

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実際は、足のある露天風呂側の方が縁が高いので、そちらを頭にしてた。

窓の向こうで、どぼどぼ打たせ湯の音が聞こえるけど、別世界のように穏やかな湯浴み。

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夜はこの窓に何匹も青白い蛾がとまっていて、見るだけで恐ろしく、ドア開けるなんてありえない状況。

加温湯船にしか入らなくても、身体中が硫黄の匂いまみれ。湯上がり肌はするする。

露天風呂は白樺の森林が目の前に広がり、すがすがしい風を感じる。

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湯船と白樺の境には岩が積んである。

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透明感のある綺麗な水色の源泉湯船。透明なので、手前のステップ台がほんのり見える。

源泉は2km上流の渋の湯近くから引いている。

開湯は奈良時代末期の延暦2年(783年)。諏訪大社のお告げで発見された。もっと昔、神代の頃、日本神話のスクナヒコナノカミがこの薬湯を探し当てたとも言い伝えられてる。スクナヒコナノカミといえば、道後温泉 道後温泉本館(愛媛) – 温泉手帖♨︎。日本三古湯の時代だ。古い。

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自然湧出してる源泉の温度は21.2度。真夏の夕方で湯船の温度は19.5度。温冷交互に中腰で浸かるのが渋・辰野館の入浴法。

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屋根の上の高い場所から、滝のように勢いよく源泉が落ちてくる。向こうに見えるのは男湯の湯口。

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ものすごい勢いなので、飛沫が激しく、湯船の中には水流がある。

縁からざばざばと溢れ出ていく。

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透明だけど、白い湯の花が舞っていて、ステップ台には白く積もってる。

ステップ台に座ると、胸くらいまでの深さ。立ち上がると、腰骨よりは下だけど、かなりの深さがある。

朝の外の気温は15度くらいかな、真夏なのに。湯船の温度は19度割れ。源泉湯船に浸かる前提なら、真夏にしか来られない。

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もうひとつの信玄の薬湯に行くには、分かれ道を真っ直ぐ進む。

戦国時代には武田信玄が湯治に利用したという信玄ゆかりの隠し湯。

3年前にも信玄の隠し湯に行ってる。下部温泉 古湯坊 源泉舘(山梨) – 温泉手帖♨︎松代温泉 国民宿舎 松代荘(長野) – 温泉手帖♨︎杖温泉 旅館 弘法湯(山梨) – 温泉手帖♨︎もだ。信玄の温泉調査力すごいな。

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廊下からはイメージできない木造りで、急にいかにも秘湯の湯小屋といった感じの脱衣所が現れる。わくわく感いっぱいで、急いで浴衣を脱ぐ。

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おお。木造りの風情ある、なんとも言い難いほどの鄙びた素敵な浴室。窓の外には光を浴びた白樺。

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3つの湯船が並んでいるけど、一番手前の湯船は入浴用ではない。透明感のある水色のお湯に、膜が張るように白い湯の花が浮いてる。隣の男湯と繋がっているみたい。

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真ん中が源泉湯船で、打たせ湯のように源泉が上から注がれてる。

透明感のあるほんのり青みがかった乳白色の湯船。

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窓際にあるのが加温湯船で、真っ白の濁り湯。

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源泉湯船はなんで打たせ湯方式なんだろう。酸性なので、目にしみそうでちょっと躊躇する。しかも冷たい飛沫だから、ひーってなる。

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源泉は飲泉可。1日60ccが目安。

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これ手で受けて飲むのって‥、いやコップで受けるにしても、激し過ぎるような。

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ほんの少しだけ酸味のある炭酸のような味。手で受けると泡がつく。遊離二酸化炭素が511mgも含まれてるけど、身体に泡付きは確認できなかった。

ふわふわ感があるので、さすってみるけど泡は上がってこない。酸性のきしむ感じより、ざらっと粒子感と、肌にじっとり馴染むような硫酸塩泉っぽい肌触り。

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木筒の湯口には湯の花が積もり、下側は真っ白にコーティングされてる。

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縁からざばざばかけ流しなので、

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側面や床にも湯の花が溜まってる。歩いたところが黒く足跡になってる。

杉と檜、サワラを使った木造りの湯船。木の素材が違うから湯の花の付き方も違うのか。

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湯船の中の側面には、木の繊維に湯の花がふさふさ引っ付いてる。透明な湯にうっすら湯の花の白い膜が浮いてる。

湯の中には白い塊になった湯の花がたくさん。

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加温湯船側の隅に、三角形のステップ台があり、足を入れると溜まってた湯の花がもわっと巻き上がる。

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源泉湯船はかなり深い。ここに座ると胸くらいまでの深さで、立つと腰骨くらいまである。

濁っていて見えないので危ないのもあり、チェックイン時にも注意されたし、各脱衣所にはこの板が置いてある。

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湯船の深さは90cm。成分が強いので長湯にならないように、深くしているのだそう。肩まで浸かるには中腰になるしかなく、長湯はできない造り。

というより、湯温が19.5度なので、長湯はできない。真夏なのに。

2つの湯船は少しだけ湯の行き来がある。

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左が源泉で、右が加温。

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加温湯船は真っ白でミルキーな濁り湯。

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源泉側には湯の花がたくさん。

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指で触ると巻き上がる。もう一つの源泉湯船(森の温泉の露天風呂)と比べると、濁りが強い気がするのは、加温湯が多少流れ込むからか。

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加温湯船には白い細かい湯の花がたくさん舞っていて、真っ白に濁ってる。

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こちらも、森の温泉の加温湯船よりも濁りが強いのは、源泉が流れ込んできてるからかな。

ふわふわの肌触りで、酸性のきしみよりもふわつるな感覚。メタケイ酸が96mgと保湿性が高い。

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夕方の湯温は40度。翌朝は41度だった。

入り口のステップ台に腰掛けると、胸の下あたりまでの深さで、つま先はぶらぶらと浮いていて足はつかない。立つと腰骨まではいかないけど、股下よりもはるかに上までの深さ。森の温泉の露天風呂と同じくらい。

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加温循環なので、湯船の中から加温湯が投入されていて、ふわふわとかなりの水流があり、それによって浮力を感じる。

森の温泉のように、ステップ台に横たわると、湯船の長さが短めなので、足がつかえる。膝を曲げて、頭を縁に預けて寝湯。膝も倒せばなんとか湯に浸かる。

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隣の飛沫のせいなのか、目がしばしばする。ステップ台に手をつくと黒くなった。ということは、お尻も黒くなってるのか。

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結局、源泉湯船はどんな深さかな、どんな湯感触かなと確かめるために入っただけで、味わうほどの時間は冷たくて浸かっていられない。

というか、加温湯船がいい湯加減で、しっかり硫黄を感じる濁り湯なので、それで充分満足してしまう。特に森の温泉の方のぬる湯が最高。

久しぶりに激しい硫黄臭だった。着て帰った服を洗った後、干してる時に硫黄の匂いにむせそうになった。

そうだ、食事のレベルが高く、木の器が好みだった。前菜プレートだけでお腹いっぱい。

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もう一つ奥にある渋御殿湯は、泉質が似ていて、源泉湯船と加温湯船がある同じような温泉宿だけど、男湯だけ足元湧出で女湯が残念。

色々研究したけど、女性が宿泊するなら雲泥の差でこちらがいい。

 

奥蓼科温泉 信玄の薬湯 渋・辰野館
★★★★
単純酸性冷鉱泉
21.2度
pH 2.71
男女別各 加温湯船2 源泉湯船2
加水加温循環消毒なし ※加温湯船は加温循環消毒あり

 

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